yama1931’s blog

長編小説とエッセイ集です。小説は、明治から昭和の終戦時まで、寒村の医療に生涯をささげた萩市(山口県)出身の村医師・緒方惟芳と彼を取り巻く人たちの生き様を実際の資料とフィクションを交えながら書き上げたものです。エッセイは、不定期に少しずつアップしていきます。感想をいただけるとありがたいです。【キーワード】「日露戦争」「看護兵」「軍隊手帳」 「陸軍看護兵」「看護兵」「軍隊手帳」「硫黄島」        ※ご感想や質問等は次のメールアドレスへお寄せください。yama1931taka@yahoo.co.jp

2018-10-01から1ヶ月間の記事一覧

杏林の坂道 第十五章「悲運重なる」

(一) 全国民の悲願にもかかわらず、硫黄島は米軍の手中に落ちた。それまで父や夫や息子、あるいは兄や弟が守備隊員となっていた家族は、我が軍の勝利を信じ、身内の無事を祈った。しかし彼我の戦力の差は歴然としていた。米軍に到底太刀打ちできるものでは…

杏林の坂道 第十六章「困苦に耐えて」

(一) 村長をはじめ多くの村民の悲しみのうちに、村葬は立派に終わった。その日を境にして幸は毎日、暁暗(ぎょうあん)の仏前で灯明をあげ香を焚き、『修証(しゅしょう)義(ぎ)』の「第一章 総序」を低唱した。 生(しょう)を明(あき)らめ死を明らむるは仏家一…

杏林の坂道 第十七章「硫黄島~遺骨収集と慰霊巡拝~」

(一) 終戦から五年経った昭和二十五年の事である。「第一次硫黄島戦没者遺骨収集」の際、芳一の遺品が発見されたという記事が新聞に載った。その後しばらくして、幸の下へ『従軍手帳』が送られてきた。正道にはその日の事が、忘れようにも忘れられないほど…