雑詠
葉も枝も隠すがごとく咲き誇る白蓮の花散り敷けるなり
花散りて若葉装(よそ)える白蓮の根元に咲ける一輪の花
週に二度指圧に通う道すがら種々なる花の目を楽します
田圃道名もなき花に目を留めてしばし佇みじっと見つめる
名も知らぬ咲き乱れたる草花の春の来るを喜ぶがごと
蟻や蜘蛛たとえ小さきものなれど共に生けるを喜ばざるや
ガラス越し白き花咲く豌豆に花かとまごう蝶の羽ばたく
青空に一直線の飛行雲しばし消えずに残りたるかな
庭の草腰を屈めて取る妻に声をかけしは三年前か
探し当て庭にたたずむ老妻に無理をするなと声をかけたり
コロナ禍で入院すれば老夫妻永久(とわ)の別れに口もきかれず
ベランダに玄米撒けば雀らが何処からともなく飛び来るなり
いびつなる固き花梨(かりん)の実なれども赤き蕾の可憐なるかな
風呂上り背中拭いてと老妻は我を呼びにて裸で立てり
真夜中に階段這いて老妻は寝れぬからと我を起こせり
後一年共に暮らせば六十年長く思えど短くもあり
妻逝きて頭に浮かぶ一言は後悔先に立たずなるなり
人は皆我執(がしゅう)を去れば清らなる心を持ちし仏となれり
病院で声かけ呉れし一女性高校時代に我がクラスだと
教え子の数知れぬほど多けれど会うて分かるは幾人なるや
2022・4・15 記す